【1999年(平成11年)12月1日(水曜日):読売新聞】 は げ 青森県八戸市立明治小学校1年 岩沢 泉 せんせい、わたしのあたまはみんなとちがうよ。ずっとまえは、くびぐらいのかみだったのにいまは、はげてるの。 まあるくなるびょうきだって。ちっちゃいのじゃなくておっきくまあるくなるはげのびょうきだって。みんなとちがうからいやだな。はやくかみがながくなあれ、ながくなあれといってもなおらないの。 わたし、かがみみるのがきらい。かっぱみたいだからいやなの。それにあたまをぶらしでけずるのもいやだ。おばあちゃんは、そっとはげをかくすようにしてくれるけど、はりみたいにちくちくしていたいの。 たべるのりでもいいから、あたまにはれたらいいなあ。えのぐのくろでもぬれたらいいな。あさみちゃんみたいにかみがのびたらいいな。わたしのこと、みんなどうおもっているんだろう。いつもしんぱいだよ。 1の1のひとは、だr5えもいわないからとってもうれしいよ。でもこのあいだぶらんこにのってたら、2ねんせいのおとこのこが、はしってきて、きゅうに、 「はげちゃん、はげちゃん。」 とおっきいこえでいったの。 わたしはびっくりしてこころがまっくろになったよ。きょうしつににげたかったけどあしがあがんなかったの。ないたらはずかしいとおもってもないちゃったんだよ。 そのとき、3ねんせいのひろえちゃんが、 「どうしたの。」 とたすけてくれたの。ひろえちゃんは、ようちえんでいっしょだったから、とってもうれしかった。おしえたら、 「しょくいんしつへいこう。」 とてをつないでくれたよ。ひろえちゃんのては、あったかかったよ。でもわたしは、いしみたいにかたまってたから、なきながらいっしょにいったの。せんせいが、びっくりして、 「どうしたの。」 とかおをのぞいたときも、まだかたまってたからおはなしができなかったの。 せんせいは、ひろえちゃんになんかいも、「ありがとう」といってから、わたしのてをしっかりにぎってくれたでしょ。わたし、ほっとした。わたしもぎゅっとにぎったよ。 だれもいないきょうしつにきてから、 「いずみちゃん、いやだったでしょ。」 ってやさしくいったから、わたしまたないちゃった。ほんとは、いっぱいいいたかったけど、いえなかったの。ごめんなさい。 「こんどいやなことがあったら、こののうとにかいてね。せんせいといずみちゃんのひみつののうとだから。」 とキティちゃんのついたのうとをくれたときうれしかった。わたし、ほんとのことをいっぱいかこうとおもったよ。 やすみじかんがおわって、みんながきたらほっとしたよ。みんなにいいたかったけど、ないたことなんてはずかしいからおしえなかったんだ。 うちにかえってから、せんせいがかいたおてがみをみせたよ。わたしは、びっくりするとおもったのに、かなしいかおになったの。わたしもさびしくなったよ。おかあさんが、 「ひろえちゃんて、やさいしいね。いずみ、おてがみかいたら。」 といったよ。わたしはいっしょうけんめいかんがえてかいたよ。それから、のうとに、 「やすみじかん、おそとにでたくありません。きょうしつでほんをよんでいたいです。はげっていわれるからです。」と、ほんとのことをかいたの。せんせいわかってくれるかなあ。おかあさんも、ひろえちゃんにおれいのてがみをかいたよ。 つぎのひ、」せんせいにみせたら、 「わかった。せんせいといようね。」 といってくれたから、おそとにでなくなったの。ほんとは、ぶらんこにのりたいんだけどかなしいおもいをしたくないから、ほんをよんだりおえかきをしたの。さつきちゃんが、 「おそとにいこう。」 といってもいけないからさみしかったよ。せんせいがついていたから、なかなかったよ。 でも、ひとりぼっちはつまんないなあ。きょうしつからおそとをみてると、うらやましかった。みんないいなあとおもったよ。つまんないっていやなきもちになるんだね。 がっこうしきなんだけど、いきたくないときもあったんだよ。でも、2ねんせいもあやまってくれたから、やすまないできたよ。それからなんにちかしてね、おそうじのとき3ねんせいぐらいのおんなのこが、あっくんのことをわらいながら、 「めがねざる。」 といったよ。あっくんは、へいきなかおだったけどがまんしていたとおもう。わたしみたいにすっごくいやなきもちだったとおもう。あっくんだって、めのびょうきだからみんなよりあついめがねをかけているんだよね。 わるくちいうひとは、いじわるなこころなんだよ。わたしは、まちがえてもいわない。ぜったいいわないよ。せんせいにおしえてもらっているし、いわれるとかなしいの、しっているもん。わたしは、あっくんに、 「だいじょうぶ。」 といったら、はずかしそうにわらったよ。あっくんは、えらいとおもった。わたしみたいになかないもん。おとこのこだからつよいのかな。わたしもまねをしないとね。 つぎのひはかていほうもんだったから、とてもうれしかったよ。おかあさんは、せんせいからいいことをきいたみたいで、すぐあやかちゃんのおかあさんにでんわをしてたよ。おばあちゃんは、はげているところをなおしてくれるおみせをしっているんだって。 つれていってもらったら、そこは、とこやさんだったの。でも、いいくすりをつけてくれるんだって。おかあさんは、 「おねがいします。」 となんかいも、ふかくあたまをさげたよ。 「おくすりつけると、びりびりするけどかみがのびてくるから、がまんしてね。」 と、とこやさんがやさしくいったの。わたしは「うん。」といったけど、こわかった。 げんこつをぎゅうっとにぎってたら、あやかちゃんが、そばにきて、 「だいじょうぶ。」 としんぱいそうにいってくれたの。だからふたりでしんぱいしたの。あやかちゃんてやさしいなっておもったよ。わたしは、あっくんみたいに、なかないでがまんしたよ。 おわったら、とこやさんもおばちゃんも、 「ぜったいなおるよ、つづけておいで。」 といってくれたの。わたしは、あやかちゃんとかおをみてにっこりわらったよ。いまはね、だいのなかよしだよ。うさぎさんにえさを、あげるのにおそとにいっしょにいけるようになったしたくさんあそべるようになったよ。 なつやすみには、さつきちゃんやゆきちゃんもいっしょになって、ぷうるでれんしゅうしたよ。だからせんせい、わたしは、もうひとりぽっちじゃないよ。 二がっきになったら、せんせいが、すぐ、 「あら、かみがくろくなってのびたね。」 といってくれたでしょ。はじめていわれたからすごくうれしかった。みんなも、 「ほんと、よかったね。いずみちゃん。」 とよろこんでくれた。ちかごろおとうさんにもおかあさんにもおばあちゃんにもいわれるよ。かがみをそっとみたら、ほんとにあかちゃんみたいなけがはえていたの。うれしくてうれしくて、わたしのかみがのびたくらいうれしかったよ。ばんざあい、もっともっと、のびてね。わたしもがんばるから、もうちょっとのびるのがんばってねと、こころでおうえんしたよ。そっとなでながらいったよ。 (指導=土田洋子先生) ◇全文掲載 |